2012年3月25日日曜日

親子でテレビを見る - 論文・レポート


 

人はルールを守るものだと、誰もが時々注意されながら育ってきた。様々な社会的状況の中での行動のルール、または遊び方のルールに変化がないときには、こうした注意はとても役に立つだろう。しかし人々が慣れ親しんでいるルールが変わった場合にはどうなるだろう。まさに現在、親や学校が立たされている状況がそうである。多くの国の政府が生産性を上げるため、世界を市場とした競争に勝つため、また精神の状態をよりよくするために、創造的思考の育成を最優先にするように方向転換をはかった。このことから家庭や学校で子どもがどのように育てられるべきかというルールが変わってきたのである。

 

未来のあり方を考えると人々に今までより一層、創造性が求められることがわかる。創造性のある人は、新しい知識への適応力、複雑なものを受け入れる能力が高い。また争いごとを平和裏に解決する力に富み、条件を良くする新しい可能性を探索し、退屈を回避、自己決定能力が高く、不確かな中でも平常心を保てる、増大していくばかりの消費者としての選択にも圧倒されない強さをもつなど、あらゆる点で強みを発揮できる。

 

創造性のある卒業生を輩出していくために学校はどう変わるべきか、様々な意見がある。しかしながら、創造的思考を育むために幼児期からの教育が大切であるという点で教育者たちの意見の相違はないようだ。また、小さな子どもは最も多くを母親や父親から学ぶという点でも異論はない。

大抵の人が親は子どもと一緒にテレビを見ることで子どもに教えられることがいかに多いかを見過ごしている。テレビは親に三つの大きな課題を投げかけている。1.親はどの番組を子どもに見せていいかの決定をしなくてはならない。2.メディアから送られるメッセージを理解する手助けをして子どもの批判的思考を育てる。3.子どもの言うことに耳を傾けたり、質問したりすることで、案内役としての親の質を大きく高められる。ほとんどの親が家族で見る番組があると報告しているし、実際、家族で過ごす時間が一番長いのは、テレビを見て過ごす時間である。

 

会話を促す質問

 

テレビを見ているときは、誰もが同じ画像や言葉を見聞きしているが、これまでの経験の違いから、見る人たちの年齢によって、同じ事柄に対しても異なった反応や結論が引き出される。この受け止め方の違いが、家族間の意見交換を豊かにし、それぞれの見方をお互いに理解させてくれる。

 

テレビで見たものを子どもがどのように解釈しているかを知る一つの方法は、質問することである。表1で、ほとんどのテレビ番組で使える親子の会話を促す質問と、その目的を列挙した。切り取ってテレビの脇に貼るか、リモコンの裏に貼ってみてはどうだろうか。

表1:テレビを一緒に見ながら子どもにする質問


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質問  目的
 1.自分がこんな状況にあったらどうする?  選択肢を考える
 2.次はなにが起こると思う?  次の事態の予測
 3.この番組のどこが一番好き?  興味を語らせる
 4.もし友達だったら、どうやってこの人を助ける?  求められていることに反応する
 5.この言葉(ある特定の言葉を指して)は何の意味だと思う?  語彙を増やす
 6.彼あるいは彼女は正しい決断をしたと思う?  判断の評価
 7.彼あるいは彼女はどんな人だと思う?  人物の評価
 8.この状況から彼(彼女)は何を学んだと思う?  学習の評価

1. 自分がこんな状況にあったらどうする?
異なる選択肢を見つける能力は生涯にわたって大切な能力である。一つの状況において多くの可能性を見つけられる人は、交渉力や他人とうまくやっていく能力に優れ、問題解決においても多くの選択肢を考え出すことができる。このような強みは、紛争解決や平常心を保つ上で非常に役立つものだ。様々なものの見方を子どもと話してみることで、親と子どもは個々人の解釈の範囲と限界をさらけ出す。こうしたことで親は、子どもが何を知っていて、その知識を補強するためにはさらになにが必要かを知ることができる。

2. 次はなにが起こると思う?
予測や仮定を要求される質問をすることで、子ども達は出来事を予測し、今見ていることがらの先の事柄を想像、今後の見通しを話すように促される。このような質問には様々な答えがあり、どの答えが正しいということもないので子ども達に多くを語らせることができる。また大人との意見の相違を浮かび上がらせるアプローチでもある。娘や息子が自分たちの思いもしない考えを抱いているのを知って親は子どもの考えが深さや広がりをもってきたことを尊重し、親と子の関係もより高い次元に移ることができる。こうした推測タイプの質問をすることで、母親や父親はまた不確かなことがらに対してゆったりとかまえられる姿勢を学び、どんな反応を得られるか予測がつかない問題に対し、もっと子どもと話したいと思うようにな� �。

3. この番組のどこが一番好き?
この質問で子どもがどこに興味をもったかを知ることができる。親密な関係を築く条件の一つは、他者が喜んだりがっかりしたりすることがらを意識するよう心がけることである。言い換えれば、他者の選択や好みを理解することである。お互いの「好き嫌い」を言い合うのは、自分が妥協や我慢の決断をするときのベースとなる情報を分かち合っていることと同じである。一番好きなことがわかりあっていれば話しやすいだろう。


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4. もし友達だったら、どうやってこの人を助ける?
誰もが他者を思いやり、助けたいと思えたらどんなにいいか。人に対し誠実であること、困っている人に手を差し伸べる気持ち、人が困っているのを察する能力、これらは具体例やブレインストーミングで教えられるはずである。家族や親戚で、友人関係の難しさや友情を維持するために心がけている方法について話し合うことで多くを得られるだろう。8歳や9歳の頃、行動や態度が友人関係から大きな影響を受け始める時期に、自分を見失うことなく、友情を築き、保っていくにはどうしたらいいか、子ども達は家族や親戚からのアドバイスを必要とし始める。

5. この言葉(ある特定の言葉を指して)は何の意味だと思う?
言語的な発達は生涯にわたる課題であり、他の世代の人々との会話を理解する上での要となる。子供向け番組で聴かれる言葉のいくつかは大人には未知の言葉であり、この質問が有効であろう。MTVは2億5千万の視聴者を有する世界で最もよく見られているチャンネルだが、言語の構築には、その言葉に通じた相手を必要とする。子どもであれ大人であれ、違う世代に言葉の意味を教えてくれる相手がいてそれは可能となる。視聴者は、一緒に番組を見ていて、わからない言葉があったら、その言葉を声に出して言ってみるよい。10代が定義づけて使っている言葉や子どもが知っていて大人が知らない言葉に大人は驚かされる。言葉は文脈の中で学ぶのが一番いいので、テレビは学校で教わった言葉以外の広がりをもたせてくれる。

6. 彼あるいは彼女は正しい決断をしたと思う?
ここでの目的は判断を評価することである。大人は子どもがよい判断をし、重大な失敗をすることがないようにと願うが、大事なことを学ぶ前に、よからぬことが起こってしまうこともしばしばである。テレビを使えば、実際に失望したり恥をかいたり、望まない結果を受け止めることなく、テレビ画面の中で登場人物が窮地に陥るのを見てあれこれ言いながら、家族は予見できる問題をシミュレートし、それぞれの判断の適正を探ることができる。

7. 彼あるいは彼女はどんな人だと思う?
人の性格を見極めることは、子ども達が成長するにつれますます重要になる。母親や父親は子ども達が置かれた状況をよく把握し、どの人と一緒にいることが自分にとって一番いいことであるか正しく判断できるように望む。このような力をつけるには、番組の序盤と終盤にテレビをみている親と子がそれぞれ特定の登場人物達の性格についてどう思うか言い合い、比較するといい。母親や父親がいつも一番よくわかっているというわけではないが、状況を把握するといった点で、親には子に教えるだけのものがあると子ども達も思っているようだ。


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8. この状況から彼(彼女)は何を学んだと思う?
テレビは、人々が直面する様々な困難を観察する機会を日々与えてくれる。親と子は番組で取り上げられている問題と関連した自分たちの生活での出来事や苦労を話すことで、その問題に自分達を重ね合わせて考えることができる。道徳心を養うには、観察者となることが一番いい方法であることをもっと多くの人が知るべきである。自分の行動ではなく他人の行動に焦点を当てれば、自己弁護に陥ることもなく、必要と思える自己変革をしてみようと、もっと気楽に思えるのではないだろうか。

 

学習者としての能力を高める

 

親は子どもが学業で成功するために求められるスキルは家族でテレビを見ている間にも高められるということについてもっと知るべきである。子ども達が学べることについて表2に列挙した。

表2:学業に必要なスキル

1. 正しい順番で出来事を述べる。
2. 提示されたことがらの要点をつかむ。
3. 語彙を豊かにし続ける。
4. 他の人の意見を再び述べる。
5. 質問をして、何に興味をもったか伝える。
6. 異なった意見に耳を傾ける。
7. 意見と事実の区別をする。
8. 番組で学べたことを復習する。
9. 正しい行動、悪い行動を認識する。
10. 次に起こることを予測する。
11. 人の性格や人間性を評価する。
12. 判断の質を見極める。
13. 考えられうる解決の範囲を特定する。
14. 他者の長所を認識する。
15. 状況の類似点を把握する。
16. 決定の背後にある理由を理解する。
17. 番組を見て考えがどう変わったかを話す。
18. 決定が他の要素に与える影響を認識する。
19. 理解できなかったことがらについて質問する。
20. 道徳心を学ぶ必要について考える。


双方向で学ぶことの利点

親によってはテレビを見ながら、子どもと質問をしたり会話をしたりすることが最初煩わしいと感じるかもしれない。そう思う親はこうした会話は気を散らすもので、劇場で映画を見ているときにやられたらうんざりするような行為と同じようにとらえがちである。彼らの意見ではテレビは、他人が集中するのを邪魔しないよう静かに見るべきものである。このように考えると、番組について話すのに一番適当な時間は番組が終わった後、テレビを消した後である。しかし、親と子どもがストーリーを追いながら同時に会話するのは無理だと思うのは、間違いだ。一度に二つのことを同時にしていくマルチタスクの能力を過小評価してはいけない。映画の画面を見ながら同時に字幕も見ていくこともこれに当たる。親も子も、容易くプロ� ��ラムの内容を追いながら、意見を言える。真に重要なのは、番組を詳細に理解することではなく、親と子が互いに話し合えるということなのだ。


親たちは考えを切り替えられたらすぐに、子ども達がテレビの前で今までよりずっと自分を出す様子に満足するだろう。また、番組の面白さそのものよりも、子どもとの会話から得られるものの方が大きいこともわかるだろう。にもかかわらず、家族が隣り合って一緒にテレビを見ているのに、番組についてどう思うか何も話していない家族が多い。子どもに意見を求めたら、子どもが大人の意見に払う気持ちの大きさも変わってくる。

 

結論

 

子ども達は、大人たちには教えられることがたくさんあるとわかっている。しかし、子どもの経験は大人の経験とあまりに違っているので、子ども達は、子どもが大人からだけではなく、大人が子どもから学ぶこともあるはずだと信じているのだ。こう考えると、両方の世代が、互いに学び合えるようになる。急速な変化の時代に、双方に学び合うことは欠かせないことであるが、こうした考えを嫌う大人もいる。社会が家族にゆだねてきた役割や指導的なコミュニケーションのあり方は堅持されるべきだと親は感じているようだ。過去においては、価値の伝達は一方向で、古い世代から若い世代に向けて行われてきた。大人もまた子どもから学ぶべき態度、価値観、考え方もあるというアイディアは新しいものだ。そのた め、社会はまだ若い人々を知識の源であるととらえる考え方に親しんでいない。

 

子どもと一緒に、創造的思考、批判的思考、観察力を高めるためにテレビを利用することについて、親が知っておくべきことはまだたくさんある。子どもの教育のためにルールを変える、そのためには自分たち自身も変わらなくてはならない。特に、子どもと一緒にテレビを見るには、そのための時間をつくらなくてはいけないということだ。次に、一緒にテレビを見ながら娘や息子にしっかりと質問すること、このためには練習してコツをつかまなくてはならない。そして子ども達が番組をみてどんな印象をもったか言葉にするのを期待されているように、親もまた自分たちが思ったことを伝えてなくてはならない。自分をさらけ出すことが求められている。最後に、家族で何を見るか、子ども達にある程度の選択権を与える必要があ� ��。これは子どもが興味をもつことがらを受け入れるということだ。こうしたことに応えられる親は、子どもと楽にコミュニケーションが取れ、生涯にわたりよい案内役であり続けることができるであろう。



<参考文献>
Baker, D., & LeTendre, G. (2005). National Differences, Global Similarities: World Culture and the Future of Schooling. Stanford, CA: Stanford University Press.
Roberts, D. & Foehr, U. (2004). Kids and Media in America. New York: Cambridge University Press.
Senge, P., Scharmer, C., Jaworski, J., & Flowers, B. (2005). Presence: An exploration of profound change in people, organizations, and society. New York: Doubleday.
Sternberg, R. (2002). Handbook of Creativity. New York: Cambridge University Press.
Strom, R., & Strom, P. (2005). Teaching through play and respecting the motivation of preschoolers. In McInerney, D., & VanEtten, S. (Eds.), Focus on Curriculum (Volume 5 in Research on Sociocultural Influences on Motivation and Learning), pp. 3-23. Greenwich, CT: Information Age.
Strom, R., & Strom, P. (2006). New directions for teaching, learning and assessment. In R. Maclean & R. Watanabe (Eds.), Learning and Teaching for the Twenty-First Century. Support from UNESCO International Centre, Germany, with the Asia-Pacific Educational Research Association. The Netherlands: Springer Publishers.



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